工業印刷で起きやすい不良とは?印刷ズレ・かすれ・密着不良

印刷加工

工業印刷で起きやすい不良とは?印刷ズレ・かすれ・密着不良

工業印刷は、電子部品の回路形成から製品の銘板印刷まで、製造業の様々な場面で使われる重要な技術です。しかし、印刷工程では様々な不良が発生し、品質や生産性に大きな影響を与えます。

この記事では、工業印刷で特に発生しやすい代表的な不良について、その特徴、発生原因、対策方法まで、製造現場に初めて関わる人でも理解できるように解説します。

工業印刷における不良とは

工業印刷の不良とは、印刷された製品が設計通りの品質や性能を満たさない状態のことです。

工業印刷の不良は、大きく以下のカテゴリーに分類されます。

  • 位置・形状の不良:印刷ズレ、変形、にじみなど
  • 濃度・色の不良:かすれ、色ムラ、濃度不足など
  • 密着性の不良:剥がれ、浮き、ひび割れなど
  • 異物・汚れ:ゴミの混入、インク飛散など
  • 寸法の不良:線幅異常、膜厚不良など

これらの不良は、製品の外観を損なうだけでなく、機能にも影響を与える場合があります。特に電子部品の印刷では、わずかな不良が製品の性能を左右するため、厳密な管理が必要です。

印刷ズレ

印刷ズレは、印刷が本来の位置からずれている状態です。工業印刷で最も頻繁に発生する不良の一つです。

印刷ズレの種類

位置ズレ

印刷全体が上下左右にずれている状態です。

特徴:

  • 印刷パターン全体が一定方向にずれている
  • ズレ量は製品によって異なることがある
  • 多色刷りの場合、色ごとにズレることもある

主な発生原因:

  • 位置決め不良:基板や製品の位置決めがずれている
  • 治具の精度不足:位置決め治具の寸法精度や摩耗
  • 版の位置ズレ:スクリーン版やパッド版の取り付け位置が不適切
  • 材料の寸法バラツキ:基板やフィルムの寸法が安定していない
  • 温度変化:材料の熱膨張・収縮による寸法変化

対策:

  • 印刷機の位置決め機構を定期的に校正する
  • 治具の摩耗状態を定期的に点検し、必要に応じて交換
  • 版の取り付け位置を正確に管理
  • 材料の受入検査で寸法を確認
  • 作業環境の温度を一定に保つ
  • 始業時と定期的な位置確認を実施

回転ズレ

印刷パターンが回転してずれている状態です。

特徴:

  • 印刷が斜めに傾いている
  • パターンの一端は合っているが、もう一端がずれている

主な発生原因:

  • 材料のセット時の角度ズレ
  • 治具の基準面の不良
  • 搬送時の角度変化

対策:

  • 材料のセット方法を標準化
  • 角度基準を明確にする(基準マークの活用)
  • 治具の基準面を定期的に確認

多色刷りの見当ズレ

多色印刷で、各色の位置がずれている状態です。

特徴:

  • 色の境界がずれて見える
  • 意図しない色が出る
  • 輪郭がぼやける

主な発生原因:

  • 各色の版の位置ズレ
  • 印刷間の材料の移動
  • 乾燥時の材料の伸縮

対策:

  • 各色の版位置を精密に調整
  • 印刷間の材料固定を確実にする
  • 乾燥条件を最適化し、伸縮を最小化
  • 見当合わせマークを活用

印刷ズレの許容範囲

許容されるズレ量は、製品の用途によって大きく異なります。

用途 許容ズレ量の目安
精密電子部品 ±0.05mm〜±0.1mm
一般的な回路基板 ±0.2mm〜±0.3mm
銘板・表示パネル ±0.5mm〜±1.0mm
装飾印刷 ±1.0mm〜±2.0mm

かすれ

かすれは、印刷が薄くなったり、部分的に欠けたりする不良です。

かすれの種類と特徴

全体的なかすれ

印刷面全体が薄い状態です。

特徴:

  • 印刷全体の濃度が不足
  • 下地が透けて見える
  • 文字や線が読みにくい

主な発生原因:

  • インク量不足:インクの供給量が少ない
  • インク粘度異常:粘度が高すぎて流れにくい
  • 印刷圧力不足:圧力が弱くインクが十分に転写されない
  • 版の状態不良:スクリーンの目詰まり、パッドの硬化
  • 乾燥しすぎ:印刷前にインクが乾燥している

対策:

  • インク供給量を増やす
  • インクの粘度を適切に調整(溶剤や希釈剤の添加)
  • 印刷圧力を上げる
  • 版を清掃または交換
  • 作業環境の温度・湿度を管理

部分的なかすれ

印刷の一部が薄かったり、欠けたりしている状態です。

特徴:

  • 特定の場所だけ濃度が低い
  • 文字の一部が欠ける
  • パターンに穴が開く

主な発生原因:

  • 版の局所的な目詰まり:特定部分のメッシュが詰まっている
  • 表面の凹凸:基材表面に凹みやゴミがある
  • 異物の付着:版や基材に異物が付いている
  • 密着不良:版と基材の接触が部分的に悪い
  • 前処理ムラ:表面処理が不均一

対策:

  • 版を徹底的に清掃(溶剤洗浄、超音波洗浄)
  • 基材の表面を清掃し、平滑性を確保
  • 印刷前に基材と版の表面を確認
  • 版と基材の密着性を向上(圧力調整、版の張力調整)
  • 表面処理の均一性を確保

経時的なかすれ

印刷を続けるうちに徐々にかすれていく状態です。

特徴:

  • 最初は良いが、時間とともに濃度が低下
  • 印刷枚数が増えると悪化

主な発生原因:

  • インクの溶剤揮発による粘度上昇
  • 版の目詰まりの進行
  • インクの乾燥
  • 版の摩耗

対策:

  • 定期的にインクを攪拌
  • インク容器を密閉し、溶剤揮発を防ぐ
  • 定期的に版を清掃
  • 適度なタイミングで版を交換
  • インクに乾燥遅延剤を添加

かすれの検査方法

  • 目視検査:適切な照明下で濃度を確認
  • 濃度計測定:反射濃度計で数値化
  • 顕微鏡観察:印刷の状態を拡大して確認
  • 限度見本:OK/NGの基準サンプルと比較

密着不良

密着不良は、インクが基材表面にしっかりと密着せず、剥がれたり浮いたりする不良です。工業印刷で最も深刻な不良の一つです。

密着不良の種類

即時剥離

印刷直後または乾燥直後に剥がれる状態です。

特徴:

  • 印刷後すぐに剥がれる
  • 軽く触れただけで取れる
  • インクが粉状になって剥がれることもある

主な発生原因:

  • 前処理不足:脱脂や表面処理が不十分
  • 表面の汚れ:油分、ほこり、離型剤などが残っている
  • 不適切なインク:基材に合わないインクを使用
  • プライマー不使用:密着性向上処理を省略
  • 表面処理効果の低下:コロナ処理などの効果が時間で低下

対策:

  • 前処理工程を見直す(脱脂液の濃度、温度、時間)
  • 表面の清浄度を確認(水の接触角測定、表面エネルギー測定)
  • 基材に適合したインクを選択
  • プライマーを使用
  • 表面処理後は速やかに印刷
  • 前処理後の保管環境を清浄に保つ

経時剥離

印刷直後は問題ないが、時間が経つと剥がれる状態です。

特徴:

  • 印刷直後の検査では問題ない
  • 数時間〜数日後に剥がれる
  • 顧客先でクレームになることがある

主な発生原因:

  • 硬化不足:インクが完全に硬化していない
  • 密着性の経時低下:内部応力による剥離
  • 環境変化:温度・湿度変化による影響
  • 化学的な相互作用:インクと基材の反応

対策:

  • 硬化条件を見直す(温度を上げる、時間を延ばす、UV照射量を増やす)
  • 硬化の確認試験を実施(溶剤こすり試験)
  • エージング試験で経時変化を確認
  • 環境試験(温湿度サイクル試験)を実施

部分剥離

印刷の一部だけが剥がれる状態です。

特徴:

  • 特定の場所だけ剥がれる
  • エッジ部分から剥がれることが多い
  • 浮きやふくれとして現れることもある

主な発生原因:

  • 前処理のムラ
  • 部分的な汚れの残留
  • 印刷厚のムラ(厚い部分が剥がれやすい)
  • 基材表面の凹凸

対策:

  • 前処理の均一性を確保
  • 洗浄を徹底し、洗浄ムラをなくす
  • 印刷厚を均一にする
  • 基材の表面品質を向上

密着性試験の方法

密着不良を防ぐには、適切な試験で密着性を確認することが重要です。

テープ剥離試験(クロスカット試験)

最も一般的な密着性試験です。

方法:

  1. 印刷面にカッターで碁盤目状(1mm間隔程度)に切れ込みを入れる
  2. 粘着テープ(セロハンテープ)を貼り付ける
  3. 気泡が入らないようしっかり押さえる
  4. 一気に剥がす
  5. 剥がれた面積を評価

評価基準:

  • 0級:剥がれなし → 密着性良好
  • 1級:わずかに剥がれ(5%以下) → 実用上問題なし
  • 2級:部分的に剥がれ(5〜15%) → 条件によっては使用可
  • 3級以上:大きく剥がれ → 密着性不良

こすり試験

印刷面を擦って耐久性を確認します。

方法:

  • 消しゴムや布で一定荷重・回数こする
  • 印刷の剥がれや変化を観察

溶剤試験

アルコールなどで拭いて密着性を確認します。

方法:

  • イソプロピルアルコールなどを染み込ませた布で往復こすり
  • 規定回数(50回など)で印刷の状態を評価

環境試験

実使用環境を模擬した試験です。

  • 耐熱試験:高温環境に一定時間暴露
  • 耐湿試験:高温高湿環境に暴露
  • 温度サイクル試験:高温・低温を繰り返す
  • 耐候性試験:紫外線や雨を模擬

その他の代表的な不良

にじみ

インクが必要以上に広がり、輪郭がぼやける状態です。

主な発生原因:

  • インクの粘度が低すぎる
  • インク量が多すぎる
  • 印刷圧力が強すぎる
  • 基材表面が粗すぎる
  • 乾燥が遅い

対策:

  • インクの粘度を上げる(増粘剤添加)
  • インク量を減らす
  • 印刷圧力を下げる
  • 基材の表面粗さを適正化
  • 乾燥条件を見直す

ピンホール

印刷面に小さな穴が開いている状態です。

主な発生原因:

  • 基材表面の気泡
  • インク中の気泡
  • 異物の混入
  • 濡れ性不良

対策:

  • インクを十分に脱泡
  • 基材の前処理を適切に実施
  • 作業環境を清浄に保つ
  • インクの濡れ性を向上(添加剤使用)

色ムラ

印刷の濃度や色が不均一な状態です。

主な発生原因:

  • インクの攪拌不足
  • 版の状態が不均一
  • 印刷圧力のバラツキ
  • 乾燥ムラ

対策:

  • 使用前にインクを十分に攪拌
  • 版を均一な状態に保つ
  • 印刷圧力を一定に管理
  • 乾燥を均一にする

異物混入

印刷面にゴミや異物が付着している状態です。

主な発生原因:

  • 作業環境の清浄度不足
  • インク中の異物
  • 版や治具の汚れ

対策:

  • 作業エリアの定期清掃
  • インクをフィルターで濾過
  • 版や治具を清潔に保つ
  • クリーンルームの活用

不良低減のための管理ポイント

工業印刷の不良を減らすには、以下の点を徹底的に管理することが重要です。

1. 4M管理

製造の4要素を管理します。

  • Man(人):作業者の技能向上、標準作業の徹底
  • Machine(機械):定期保全、精度管理、校正
  • Material(材料):受入検査、保管管理、ロット管理
  • Method(方法):作業標準の整備、条件管理

2. 工程管理

  • 始業点検:印刷条件、インク状態、版の状態を確認
  • 初品検査:最初の製品を厳密に検査
  • 定時検査:一定時間ごとに品質を確認
  • 終業点検:設備の清掃、翌日の準備

3. データ管理

  • 不良の種類、発生数、発生時刻を記録
  • パレート図で重点課題を特定
  • トレンドグラフで変化を監視
  • 原因分析と対策の記録

4. 環境管理

  • 温度:20〜25℃程度に管理
  • 湿度:40〜60%程度に管理
  • 清浄度:定期清掃、フィルター管理
  • 照明:適切な明るさ、検査に適した色温度

よくある誤解と注意点

誤解1:「不良は検査で見つければいい」

検査は不良を発見する手段ですが、不良を作らない工程作りが本質です。検査に頼るのではなく、各工程で品質を作り込むことが重要です。

誤解2:「同じ条件なら同じ結果が出る」

インクの状態、版の摩耗、環境条件など、様々な要因が時々刻々と変化しています。定期的な確認と調整が必要です。

誤解3:「高価な設備を導入すれば不良はなくなる」

設備は重要ですが、適切な管理と作業者の技能がなければ効果は限定的です。設備・人・方法の三位一体が重要です。

誤解4:「不良は完全にゼロにできる」

不良ゼロは理想ですが、現実には困難です。重要なのは、許容できるレベルまで不良を減らし、発生した不良に迅速に対応することです。

まとめ

工業印刷の不良は、適切な管理と対策によって大幅に減らすことができます。

重要なポイント:

  • 代表的な不良は印刷ズレ、かすれ、密着不良の3つ
  • それぞれの不良には明確な発生原因があり、適切な対策が存在する
  • 印刷ズレは位置決め精度と治具管理が鍵
  • かすれはインク管理と版の状態管理が重要
  • 密着不良は前処理が最重要で、試験による確認が必須
  • 4M管理(人・機械・材料・方法)の徹底が不良低減の基本
  • データに基づく管理で継続的に改善する

工業印刷の不良は、一つひとつの原因を丁寧に潰していくことで確実に減らせます。製造現場で不良の種類と原因を正しく理解し、適切な対策を実施することで、安定した高品質な印刷を実現できるでしょう。

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