工業用印刷とは?一般印刷との違いと製造業での役割
製造業の現場で「印刷」という言葉を聞いたとき、紙に文字を印刷するイメージを持つ人は多いでしょう。しかし、工場で行われる「工業用印刷」は、まったく別の目的と技術で成り立っています。
この記事では、工業用印刷の基本的な仕組みから、一般的な紙への印刷との違い、製造業における具体的な役割まで、初めて製造現場に関わる人でも理解できるように解説します。
工業用印刷とは何か
工業用印刷とは、製品の製造工程において、機能性を持たせるために行われる印刷技術の総称です。
一般的な印刷が「情報を伝える」ことを目的とするのに対し、工業用印刷は「製品に機能を付与する」ことが目的です。印刷という名前がついていますが、実際には「材料を正確に配置する技術」と考えた方が理解しやすいでしょう。
たとえば、スマートフォンの基板に導電性のインクで回路を形成したり、太陽光パネルに電極を印刷したりするのが工業用印刷です。
一般印刷との決定的な違い
工業用印刷と一般印刷の違いを表で整理します。
| 項目 | 一般印刷 | 工業用印刷 |
|---|---|---|
| 目的 | 情報伝達・装飾 | 機能付与 |
| 対象物 | 紙、布など | 基板、フィルム、金属、ガラスなど |
| 使用材料 | インク(顔料・染料) | 導電性ペースト、絶縁材料、接着剤など |
| 精度 | 数十〜数百μm | 数μm〜数十μm |
| 乾燥・硬化 | 自然乾燥、熱乾燥 | 高温焼成、UV硬化、真空処理など |
| 評価基準 | 見た目の美しさ | 電気特性、耐久性、寸法精度 |
一般印刷は「見た目」が重要ですが、工業用印刷では「機能するかどうか」が全てです。印刷したものが電気を通すか、正確な厚みで均一に塗布されているかといった点が評価されます。
工業用印刷の代表的な種類
工業用印刷にはいくつかの方式があり、製品や工程によって使い分けられています。
スクリーン印刷
最も広く使われている工業用印刷技術です。メッシュ状のスクリーン版にインクを押し出して、基板やフィルムに転写します。
主な用途:
- プリント基板の導体パターン形成
- 太陽電池の電極印刷
- タッチパネルの電極形成
特徴:
- 厚膜印刷が可能(数μm〜数十μm)
- 多品種少量生産に向いている
- 比較的低コスト
インクジェット印刷
ノズルからインクを微小な液滴として噴射し、非接触で印刷する技術です。
主な用途:
- 有機ELディスプレイの発光層形成
- プリント基板のレジスト塗布
- 3Dプリンターの材料噴射
特徴:
- 版が不要で設計変更に強い
- 材料の無駄が少ない
- 複雑なパターンに対応可能
グラビア印刷
凹版(くぼみのある版)にインクを詰め、ロール状の版で連続的に転写する方式です。
主な用途:
- フレキシブル基板の大量生産
- 電池のセパレーター塗布
- 包装材料への機能性コーティング
特徴:
- 高速・大量生産に適している
- 均一な薄膜形成が可能
- 初期投資は大きいが単価は安い
製造業における工業用印刷の役割
工業用印刷は、現代の製造業において欠かせない技術になっています。
1. 電子部品の製造
プリント基板の回路形成は、工業用印刷の最も代表的な用途です。導電性ペーストをスクリーン印刷し、焼成することで電気が流れる回路が完成します。
従来はエッチングという化学的な処理で回路を作っていましたが、印刷技術を使うことで工程が簡略化され、材料の無駄も減らせます。
2. ディスプレイ製造
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの製造にも、工業用印刷が活用されています。特にインクジェット印刷は、微細なパターンを正確に形成できるため、次世代ディスプレイの製造技術として注目されています。
3. エネルギー分野
太陽電池の電極形成や、リチウムイオン電池の電極塗布にも印刷技術が使われています。印刷による製造は、真空蒸着などの従来技術と比べて低コストで、製造時のエネルギー消費も少ないというメリットがあります。
4. センサー・医療機器
バイオセンサーや使い捨て医療デバイスの製造にも、工業用印刷が応用されています。印刷技術を使うことで、複雑な構造を低コストで量産できるためです。
工業用印刷の工程と管理ポイント
工業用印刷は、単にインクを塗るだけではありません。以下のような工程管理が重要です。
印刷前の準備
- 基材の前処理:印刷する表面を清浄にし、インクの密着性を高める
- インクの調整:粘度、粒子サイズ、固形分濃度を管理
- 版の準備:スクリーン印刷の場合、メッシュの目開きや張力を確認
印刷中の管理
- 位置精度:数μm単位でのアライメント(位置合わせ)
- 膜厚管理:均一な厚みで印刷できているかを測定
- 欠陥検査:ピンホール(小さな穴)やかすれがないかを確認
印刷後の処理
- 乾燥・硬化:熱処理、UV照射、真空処理などで材料を固定
- 特性検査:電気抵抗、絶縁性、密着強度などを測定
- 外観検査:顕微鏡やカメラで微細な欠陥を確認
よくある誤解と注意点
誤解1:「印刷だから簡単」
工業用印刷は、精密な製造技術です。温度、湿度、インクの状態、基材の表態など、多くの要因が品質に影響します。熟練した技術と厳密な管理が必要です。
誤解2:「どんな材料でも印刷できる」
印刷できる材料と基材の組み合わせには制限があります。インクの種類、基材の表面状態、印刷後の処理温度などを総合的に考慮しなければなりません。
誤解3:「自動化すれば問題ない」
自動化は効率を高めますが、印刷条件の最適化や異常の検知には人の判断が不可欠です。現場の経験と知識が品質を左右します。
まとめ
工業用印刷は、製品に機能を付与するための製造技術であり、一般的な紙への印刷とは目的も方法も大きく異なります。
重要なポイント:
- 工業用印刷は「材料を正確に配置する技術」
- 目的は情報伝達ではなく機能付与
- スクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷が代表的
- 電子部品、ディスプレイ、エネルギー分野で広く活用されている
- 精密な工程管理と品質検査が不可欠
工業用印刷は、私たちが日常的に使うスマートフォンや家電製品の中で、目に見えない形で重要な役割を果たしています。製造業の現場でこの技術を理解することは、製品の品質向上やトラブル対応において大きな武器になるでしょう。


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